新幹線お掃除の天使たち

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60歳を過ぎて、
私はこの仕事を
パートから始めました。

親会社はJRだし、
きちんとしているし、
それに掃除は嫌いではありません。 

でもひとつだけ
「お掃除のおばさん」を
していることだけは、
誰にも知られたくなかったんです。
 
だって他人のゴミを集めたり、
他人が排泄した後のトイレを
掃除したりするなんて、
あまり人様に誇れる仕事じゃないでしょう。
家族も嫌がりました。

(中略)

仕事も少し早くなり、
周囲の人とのお弁当の時間も
楽しくなっていった1年目の春、
私を変える大きな事件が起きました。

(中略)

ホーム上で毅然として整列し、
お辞儀をしたとき、
車窓のガラス越しに、
目が合った人がいたのです。
「あ、ヨウコさん」
それは夫の妹の顔でした。
その横には
肩をちょんちょんと叩かれて
振り向いた夫の弟も。

見られた・・・。
私、新幹線のお掃除をしているところを
見られちゃったんだわ。

複雑な思いでした。
自分の中では
もうやりがいのある仕事だと
おもいはじめていたからです。

でも世間の人はそうは思わない、きっと。
特にプライドの高い夫の兄弟たちは。
そう思うと、恥ずかしさと、
夫への申し訳ない気持ちが
ふつふつと湧いてきました。

1週間ほどした夜、
食事が終った頃に、電話が鳴りました。
私が出ると、夫の妹からでした。
「働いているとは聞いていたけど、
おねえさんが
あんなに立派な仕事してるなんて思わなかったわ」
義妹は本気で言っているようでした。
東北新幹線のお掃除は素晴らしいって、
ニュースでもやっていたの、見たの。
ずっと家にいたおねえさんが
あんなふうに
ちゃきちゃき仕事する人だなんて思わなかった。
すごいじゃないですか」

  私はうれしくてうれしくて、
なんて返事していいのかわかりませんでした。

翌年、私はパートから
正社員への試験を受けました。
面接で社員になりたい動機を聞かれ、
親類に隠していた話、
少しずつ仕事に誇りを持てるようになった話をして、
こう締めくくりました。

「私はこの会社にはいるとき、
プライドを捨てました。
でも、この会社に入って、
新しいプライドを得たんです」